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映画『夏の嵐』
1954年製作のイタリア映画、ルキノ・ヴィスコンティ監督作品。DVDにて鑑賞。

僕はいってないけど、さきごろ日本でフェニーチェ歌劇場復活公演というのがあった(いや、あるらしい?)。ベニスにあるフェニーチェ歌劇場はなんと1792年に建設された由緒ある劇場で、5年前に放火にあって再建されたばかり。「劇場装飾の資料がほとんど残っていなかったため、復元には、焼失前の写真やビスコンティの映画「夏の嵐」が参考となった。」と、Asahicomの記事にあった。

フランス・プロシア・オーストリアなどが勢力拡大のために戦争を続けていた19世紀のヨーロッパで、統一前のイタリアは大国の思惑に翻弄され続けていた。オーストリアに併合されていた1866年当時のベニスが、この『夏の嵐』のメインの舞台。ベルディのオペラ上演中、オーストリアからの独立を訴えるビラが天井桟敷席からばら撒かれて騒ぎになる。この『夏の嵐』の冒頭シーンが、当時のイタリアの政治状況を縮図のように表出していて、まさに見事というほかない。
オペラの劇場は、音楽鑑賞と社交を兼ねた場所だ。占領しにきたオーストリア軍人と、屈服したベニスの旧支配階級が、同じボックスで楽しそうにオペラを鑑賞している。このような光景は、ヨーロッパでの19世紀までの戦争と20世紀以降の戦争の違いを改めて感じさせる。人を殺すことが悪いことに変わりはない。でも、19世紀まではある程度のダメージを与えたあとで休戦条約を結び、占領した支配者が敵国の上流階級とも穏健に付き合っていたらしい。一方、第二次世界大戦からは近代兵器でどちらかの国の人民が大量殺戮されないことには終りが見えない。

本題から離れてしまったが、映画『夏の嵐』の原題は『SENSO(官能)』。騒動に陥った劇場で、レジスタンス活動に関わっていたウッソーニ侯爵がオーストリア中尉フランツに決闘を申し込む。それを円く治めようとする伯爵夫人リヴィアがフランツに決闘の中止を依頼しようと画策。彼をボックス席に呼び寄せる。若いフランツにとってリヴィアは憧れの上流階級の貴婦人。また30代後半の熟女リヴィアにとって、フランツは甘いマスクの颯爽とした美男子。二人は接近し、やがて不倫関係が生じる。戦時下の夜のベニスを二人が歩くシーンが美しい。二人の愛は肉欲にもとずいていると同時に、常に政治・社会的な影も差している。フェニーチェ歌劇場の政治的な騒動が出会いのきっかけになっているし、後半でリヴィアがフランツに渡す高額の金も、もとはといえばレジスタンス運動のための資金だ。

『夏の嵐』は好きなヴィスコンティの映画のひとつ。屋敷の室内の装飾、貴族たちの衣装、登場人物の身のこなし。贅沢な予算を注ぎ込むハリウッド映画でも、この映画の豪華さは真似できない。“貴族らしさ”は、ヴィスコンティの世界そのもの。一方、重要なシーンのセリフでは、アメリカの劇作家テネシー・ウィリアムズやポール・ボウルズの助言を得て書かれているらしい。この作品が製作された当時、アメリカとヨーロッパの隔たりは今よりもっと少なかったのでは。少なくとも映画と演劇の世界では、大西洋はほんのひとまたぎだったという気がする。第二次世界大戦中、多くのヨーロッパ映画人や演劇人がアメリカに渡っていって交流したことも理由のひとつ。ヒロインのアリダ・ヴァリが情念の炎を燃やすところは、『欲望という名の列車』(エリア・カザン監督)のビビアン・リーを連想させなくもない。

最近見て感じたのは、ヴィスコンティ映画では、室内でのカメラのパンが重要である点だ。扉が開いたり閉じたり、長い廊下に肖像画が並んで懸けてあったり、窓のカーテンを風が揺らしたり、廃屋で人が彷徨ったり、・・・。貴族が登場人物の映画では、屋敷こそが彼らの生きる宇宙。こういう感覚は、他の映画ではなかなか味わえない。ただ、『夏の嵐』の劇中音楽の使い方は、ニーノ・ロータが担当した『山猫』に較べれば、かなり劣るかもしれない。フランツのイタリア語がオーリストリア人にしてはうますぎる気がするが、イタリア映画なのでセリフがイタリア語ばかりなのは仕方ない。

階級社会を怜悧に見つめる視線と、肉体的な官能に湧き起こさせる感性を共に兼ね備えていることが、ヴィスコンティ映画を僕が敬愛する理由といえるだろうか。
| 2005年3月の映画 | 17:40 | comments(0) | trackbacks(1) |
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ルキノ・ヴィスコンティ『夏の嵐(Senso)』
イタリアの巨匠ルキノ・ヴィスコンティが描く、激しく悲劇的な恋愛(不倫)話です。 *監督:ルキノ・ヴィスコンティ(1954年、イタリア) *脚本:スーゾ・チェッキ・ダミーコ *撮影:ロバート・クラスカー、G・R・アルド *出演:アリダ・ヴァリ、フ
| Che ora e'? | 2005/07/13 4:12 PM |