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映画「紙の花」
京橋のフィルムセンターでインドの映画監督グル・ダットの遺作「紙の花」(149分、白黒、1959年)を見た。
かつて国際交流基金でグル・ダット作品上映会に行って、「グル・ダットは歌や踊りのない映画を撮りたかったのに、映画会社がそうさせなかった」と、聞いて驚いた記憶がある。グル・ダットの「渇き」などを見ると確かにシリアスだが、一方で「踊るマハラジャ」など、かつて日本でも一世を風靡した、歌と踊りを満載させた楽しいインド映画の原点をみる思いがしたからだ。

「紙の花」はグル・ダット自身が演じる映画監督が主人公。映画制作の現場で生まれる様々な葛藤に疲れて、ある雨の晩、酒に溺れながら街をさ迷う。木陰で雨宿りをしていて、見知らぬ若い女性と言葉を交わし、コートを貸したのが縁で、彼女を自分が製作中の映画の主役に抜擢する。やがて新人女優は有名スターへの道を歩み始めるが、映画監督の方は彼の妻や妻の家族との不和、一人娘に会えないことなど、個人的な問題に苦しめられる。さらに交通事故に遭うなどの不運が追い討ちをかけ、ようやく完成した映画も当たらず、映画会社からもクビを言い渡され・・・

この映画の完成後に自殺してしまったグル・ダット。なにか、この監督の心中の葛藤が肌で伝わってくる作品だった。彼はあまりにも律儀で潔癖ですぎる。芸術と娯楽との映画の両面に引き裂かれた心の苦しみが表れている気がした。
思い返すと気になる場面が多々ある。新人女優となる若い女は、当初あの田舎町で何をしていたのだろう?身寄りのない女性というだけで説明はないが、「渇き」のヒロインは娼婦で「紙の花」と同様に公園を一人さ迷っていたことから、つい同様の職業を連想してしまう。
やがて、監督は彼女を女優として採用するが、あくまでフィクションの中での理想的な女性という扱いで、現実の女優と距離を置く。目線の交わし方で、二人の間に恋愛感情が生まれていることがわかるが、監督の方はどうやら女性不信に陥っているようで、自分から女優に近づこうとはしない。
妻の両親たちの会話から、インドの上流社会では映画関係者が蔑まれていることが窺える。偏見といってしまえばそれまでだが、実は映画監督自身も(おそらく現実のグル・ダッドも)プロデューサーや他の関係者たちを、芸術の分からんやつらだと蔑んでいるところがある。
清純なヒロインは低い身分から美貌を羨まれるスターに変貌するが、自分から急に故郷に戻って貧しい農村の小学校の先生になったりもする。この小学校の授業風景を、楽しい歌でミュージカル風に描いているところが、なんとも牧歌的だった。ちょっとしたカメラ・アングルの工夫やリズミカルな編集に、グル・ダッドの才能の素晴らしさが如実に現れている。ところで前半に撮影現場へスタッフが移動するシーンでも同様にミュージカル風演出がほどこされていて愉快だったが、なぜかこのような天真爛漫を絵に描いた場面のあとに、交通事故で包帯を巻いたグル・ダッドや、落ちぶれて貧乏になったグル・ダットが映し出されるのは、とても象徴的だと思う。やはり、「紙の花」を制作していた時点で、グル・ダッドは映画の価値を信じていなかったのだ。美しい歌や踊りではもう物足りなくなってしまって、虚飾のないシリアスな場面が描きたくてしかたなかったのだろう。この点で極端な「紙の花」は、痛々しいほど自虐的ですらある。

零落した監督にかつての使用人が出会って、昔の恩を忘れず敬うところなどには、インドのカーストという強固な身分制度の影響力などが思い合わされる。「踊るマハラジャ」では無邪気な歌や踊りやアクションシーンが目立つが、それでも主人公の出自の秘密がとても重要な物語の鍵となっていた。グル・ダッドの映画でも、一方に金持ちと政治家がいて繋がり合い、もう一方には娼婦と詩人と女優と映画監督らがいて繋がり合っているようで、こういう社会の偏見や身分制度もきっと、グル・ダットの心に暗い影を投げかけていたのではないだろうか。また、「紙の花」に描かれた清純なヒロインと結婚生活に失敗している映画監督との間の哀しい悲恋には、彼の私生活上の女性問題も反映しているように思われる。
知りもしないグル・ダッドの生涯と無理に関係付けて、「紙の花」の感想を書いてしまった。まだまだ、アジア映画について発見しなければいけないことが多そうだ。
| 2004年5月の映画 | 23:45 | comments(1) | trackbacks(0) |
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コメント
はじめまして。

グル・ダッドはすばらしいと聞いていて、いつかみたいと思っているまま、まだ見る機会がありません。
このブログの解説で、いろんなイメージが膨らみました。
悲しいけど自殺しちゃったんですね。
遅ればせのコメントですいません。
| あき | 2006/12/25 6:17 PM |
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